2017/2018 オペラ 『フィデリオ』 公演プログラム 新国立劇場

『フィデリオ』は、ベートーヴェンが作曲した唯一のオペラです。ベートーヴェンは、『英雄』『運命』『第九』等の交響曲に代表されるように、「音楽によって人々をより崇高な世界へと導きたい」という熱狂的な欲求を持っていた、特別な作曲家です。

当時のオペラは、恋のもつれや嫉妬、裏切りなど、生の人間の姿を等身大で楽しみ、美しい声と歌唱の技巧を堪能するものでした。ベートーヴェンはそのような娯楽性を受け入れることができず、自分の理想に合致する台本を探し求めて苦労しました。そして、フランス革命の時代を背景に流行した「救出劇」と呼ばれる題材の中に、「より良く、より高貴な人間像」を描くにふさわしい、権力闘争に勝利する気高い夫婦愛、という崇高なテーマを見出したのです。

第1幕は世俗的で小市民的な場面から始まりますが、監獄所長ドン・ピツァロが登場すると、物語は一気に絶望と闘争に焦点が絞られていきます。歌とセリフで物語が進行するジングシュピール(歌芝居)と、最終場面のオラトリオのような合唱を、ひとつのオペラとして成り立たせているのは、やはりベートーヴェンの音楽の圧倒的な力です。

男装してフィデリオという偽名を使い、夫を救うために命を賭けて監獄に乗り込むレオノーレが、内心から沸きあがる決意と希望を歌い上げるアリアは、女性に対するベートーヴェンの高い理想像が凝縮されています。「囚人の合唱」では、「闇から光へ」というベートーヴェンの一生を貫くテーマが、感動的な響きで歌われます。第2幕で、長く地下牢に幽閉されているフロレスタンが初めて登場するアリアも、高潔な人格が見事に表現されています。
そして、フィナーレの合唱「素晴らしい妻を得た者はこの歓呼に参加せよ」は、その後もベートーヴェンの中で一生かけて温められ、20年後に作曲する『第九』で交響曲史上初めて用いられた声楽によって、同じ内容が再び高らかに歌われることになるのです。

『フィデリオ』、および交響曲を中心とするベートーヴェンの作品が、音楽史の流れを革命的に変えたことは、もはや言うまでもありません。しかし現代の社会は、「偉大なベートーヴェン」に慣れてしまい、私たちに語りかけるベートーヴェンの力強い本質にはいまだ到達できていないように思われます。『フィデリオ』が作曲されたのは、ヨーロッパにおける時代の大きな転換期でした。私たちも今、同じような転換期に生きています。新国立劇場20周年という節目こそ、彼の唯一のオペラの内容に改めて深く切り込むべき時、と考え、世界のオペラの次世代を担う特別な演出家であるカタリーナ・ワーグナーに演出を依頼しました。皆さまとともに『フィデリオ』の真の奥深さに徹底的に迫り、私の新国立劇場オペラ芸術監督としての4年間を締めくくりたいと思います。

公演詳細はこちら
販売価格

1,000円(税込)

購入数